ヤドカリ生きるんだよ


いもうとの作文 3


生きるんだよ

 春休みに、三浦半島に行きました。岩から岩へピョンてとびうつったり、いそ遊びもしました。小さな魚も見つけました。ついでにめずらしい貝やきれいな貝も拾いました。
そして、家に帰って、持って行ったポシェットの中のおみやげや、お金や、ビニールの中に入れて持って帰って来たきれいな貝をかたづけていると、お姉ちゃんにもらった黒いうず貝の中に何かいました。
「ヒャアッ。」
思わずさけび声を出してしまいました。そして、頭の中が真っ黒になって、ティッシュを取ってそれをすててしまいました。お姉ちゃんと、お父さんが、
「かわいそうだよ。」
と、言ったので、ごみ箱からあわてて出しました。だって、まちがえて持って来ただけでもかわいそうなことをしたのに、ごみ箱に入れちゃうのはもっとかわいそうだ。なんで気がつかなかったんだろう。貝の中に生き物がいるって分かっていれば、連れて来なかったのに。いつか海に帰してあげよう。
 じょうが島の海水も天然塩と天然水でできていると思うし、ふつうの海の水とはくらべ物にならないくらいきれいだから、持って帰りました。そうだ。その海水があったんだ。それを入れてあげよう。その海水をとりあえずゼリーのカップに入れて、その生き物の入った貝を入れました。そして、せん面所におきました。
 おふろに入る時、見てみるとそれはヤドカリでした。私のポシェットに一日くらい入っていたのに生きていました。私は、
「ヤドカリ、ごめんね。」
と、言いました。ゆるしてくれたかなあ。
 そのヤドカリに「やどちゃん」と名前をつけました。それから、ゼリーのカップの家じゃせまいと思って、やどちゃんには広い、小さな海を作ってあげようと思いました。貝を細かくくだいて、いちごパックにしきました。そして、海水とやどちゃんを入れました。
 私は、やどちゃんが何を食べるか気になりました。おなかがすいているかもしれないな。そうだ。金魚のえさはどうかな。と思って、金魚のえさをあげました。次の日に見ると、えさはほとんどなくなっていました。
 何日かたつと、やどちゃんもなれてきて、見るたんびにいちが変わっているくらい動いていました。ある日、やどちゃんの足が一本取れていました。そしてまた三日くらいたつと、もう一本取れているのに気がつきました。そして、じっと動かなくなっていました。私とお姉ちゃんが、
「水がにごっているからかなあ。」
「足が取れていたくて動けないのかなあ。」
「足が少なくて歩けないのかなあ。」
と、言っていると、お母さんが、
「水をとりかえてあげなさいよ。」
と、言いました。私とお姉ちゃんは、いっしょにとりかえました。やどちゃん・・・ぜったい死なないで。ちゃんと海に帰すまで世話をしてあげるから死なないでよ。そして、二日くらい様子を見ました。
「やどちゃん、がんばって。海のお家に帰るんでしょ。本当にごめんね。生きるんだよ。やどちゃん。私がやどちゃんをここに連れて来なければやどちゃん幸せだったよね。」
 だんだん涙が出て来て泣いてしまいました。すると、お母さんが、
「泣かないの。泣くとやどちゃんも泣いちゃうのよ。自分で自分をせめないで。やどちゃんは家に来る運命だったのよ。きっと香里ちゃんがたまたま海水を持って来たのは、神様のおつげだったのよ。」
と、言ってくれました。でも、私は涙をふいて泣き止もうとしても泣きやめません。きっとやどちゃん、
「いたいよお。足が取れちゃったあ。いたいよお。」
って泣いている、と思うと心配で涙が止まりませんでした。やどちゃんごめんね。本当に生きてるよね。お父さんが、
「やどちゃん死んじゃったと思うけど。お庭にうめたら?」
と、言いました。ふん。だれがうめるもんか。やどちゃんは生きているよ。死ぬなんてざんこくな。何考えているんだよ、お父さんたら。お母さんが、
「お母さんね、死んだらくさるから水がにごると思うけど、お水きれいよ。」
と、言いました。私は、「ねえ、お父さん、お母さん、明日もう一度じょうが島行こうよ。」
と、言うと、お父さんが、
「えっ。明日、雨だよ。車・・・。」と、言いました。
「何言ってんの。さっきから。やどちゃんの命と車とどっちが大切だと思ってんのよ。車はみがけばいいけど、やどちゃんはりっぱな生き物、命は取りもどせないんだよ。やどちゃんを何だと思ってんの。」
と、私が言うと、
「分かったよ。」
と、お父さんはしぶしぶ言いました。
 次の日、やどちゃんをいちごパックから出して、ふたのついた入れ物にうつしました。車に乗って一時間くらいたちました。やどちゃんのふるさとのじょうが島に着きました。雨だったので、かさをさしてかた手にやどちゃんを持ちました。始めはお姉ちゃん、次に私、その次にお母さん、最後にお父さんが持って行きました。そして、馬のせの海岸の広くてあさくて、ひきしおでも水のある一番いい所にやどちゃんとやどちゃんの気に入りそうな貝をいっしょにおきました。そして、
「やどちゃん、幸せに元気で生きるんだよ。本当にあの時はごめんね。」
と、言いました。私は、あまり帰りたくありませんでした。たったの三週間いただけでも家族の一員だったから、さようならをするのはさみしかったです。お母さんが、
「香里ちゃんも、衣里香ちゃんも『やどちゃん』て声をかけてあげたじゃない。えさもあげたし、貝もくだいてつめたり、水をとりかえたり、せいいっぱいやってあげたじゃない。やどちゃんは、幸せだったのよ。」
と、言ってくれました。
 帰り道には階段があって、左右には草がたくさん生えていました。私が、階段を登っていると、小さな声が聞こえました。
「ぼく・・・・・ありがとう。」
えっ、えっ。だ、だれえ? 見回してもだれもいない。たしかに聞こえました。男の子の小さな声。雨だから私達と海草を採りに来た人達しかいないし。だいいち、私にありがとうだなんて。もしかして、やどちゃん? 私は、お母さんに、
「ねえ、お母さん、今、やどちゃんが、『ぼく・・・・・ありがとう』って言ってたよ。男の子だもん。男の子の入るすきまもないから、草の中から聞こえるはずない。小さい声だったのは、遠くから聞こえたからだよ。」
と、言うと、お母さんが、
「じゃあ、それ、やどちゃんよ。」
と、言いました。やどちゃん、ありがとう、って言ってくれて、ありがとう。



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